「時をかける少女」

音楽、絵画、ドラマ

9月31日

 BSNHKで9月27日に放映された「時をかける少女」を録画して視聴した。若い頃に何度か見たが、当時は俳優たちの演技が下手なことと、特撮(当時はSFXやVFXという言い方はなかった)が安っぽかったという残念な感想しか持たなかった。

 今回改めて観てみたが、やはり役者は下手である。ウィキペディアによれば、監督の大林宣彦は、深町一夫役の高柳良一に「セリフは棒読みでいい」という指示をしていたという。主演の二人以外の脇役たちもほとんど芝居をしていない。教師役の岸部一徳は、ミュージシャンから俳優に転向したごく初期だと思う。今は年を重ねて「味」が出てきているが、ここでの岸部はほぼ「棒」である。その他の役者、例えば深町の祖父役の上原謙なども、もともと大根役者と言われていたとは思うが、まるで仕事をしていない。

 だが今回視聴して、慣れてくるとそれが少しも不快ではなくなることに気が付いた。予期した以上に楽しめたし、軽い感動も味わった。(以下ネタバレあり)

 主要登場人物以外の群衆(エキストラ)と、尾道・竹原の風景がリアルな額縁になっていて、その中で展開されるのはあくまでも「絵空事」なのだという感じがしてくる。この監督にとって役者はただの「被写体」であるようだ。大林映画では必ずオープニングに、「A MOVIE」というトレードマークのような字幕が出るが、これから先はあくまで作者の私的な世界だと宣言しているような気もする。
 この映画の中で実在感のある登場人物は、ヒロインの幼馴染である堀川吾朗(演-尾見としのり)だけなのだ。この映画は全編ヒロインの芳山和子(演-原田知世)の視点で描かれているが、ほぼ唯一そうでないところがある。実家の醤油醸造を手伝う吾朗が庭に出て休み、和子から返してもらった白いハンカチを顔に当てる場面である。その少し前に吾朗は母親と家業を継ぐために大学には行かないという話をしていた。切ない場面なのである。

 和子は幼い頃、割れた鏡で手を切ったことがある。その時一緒にいて彼女を助けてくれたのは、彼女の記憶では深町だった。だが、彼女がお堂の瓦の崩落から吾朗を助けた時、吾朗の手にその時についた傷跡を発見する。和子はテレポーテーションとタイムリープで深町のもとに赴き、彼によって土曜日の午後の実験室に戻される。彼女が不思議な能力を身につけるきっかけとなった場所である。実験室に入る前、和子は吾朗の手の傷跡を再度確認し、「ありがとう、ごめんなさい、さよなら…」と言う。その後、実験室で和子は深町と会い、彼が未来人で、和子と吾朗の記憶を借りていたことを知らされる。彼は和子が吾朗と結ばれるはずだったことを知っていたのである。「君は本来,堀川君と……」と言う深町を和子はさえぎる。つまり和子は吾朗を捨て、深町との愛に生きる決意をしたのだ。だが深町は和子の記憶を消してしまう。その後、近未来に場面が移る。和子は深町との記憶を失っているが、彼の影響を受けたのか薬学の研究に没頭していて、吾朗とはいまだ結ばれていない。

 これもウィキペディア情報だが、「大林は福永武彦の小説『夜の時間』を引き合いに出し『芳山和子と深町君とは、かりそめの形而上学的な愛で、本当は深いところで。吾朗ちゃんと愛し合っている。彼女は、そうした現実の愛に目が向かなくて、理想の愛の中で迷子になってしまうという、極めて純文学な物語』と述べている」という。映画の冒頭に掲げられた言葉、「ひとが現実よりも理想の愛を知ったとき、それはひとにとって、幸福なのだろうか?不幸なのだろうか?」という言葉の意味がこれで明らかになるのだ。この「ひと」は和子だけではない。より悲劇的なのは吾朗の方だろう。
 大林は福永文学の大ファンであったとのことで、同じ頃福永原作の「廃市」を映画化している。僕は当時文芸座の単館上映を見に行った。この映画にも尾見としのりは出演していて、原作には登場しない映画オリジナルのキャラクターで、ヒロインである「お嬢さん」を思慕する寡黙な下男という役どころだった。吾朗とどこか重なっているようだ。

 さて、タイムリープの場面の「特撮」は、改めて見るとそれほど安っぽいとは感じず、むしろこれが正解だと思えた。当時未熟だったCG技術を敢えて使わず、わかりやすいマット合成を多用している。アニメーションの処理なども敢えて迫真性を排除しているように見え、それがむしろ新鮮に感じられるのだ。特にこの映画のコマ撮りとソラリゼーションなどは、リアルなCGに慣れた若い人には初めて見るような映像だろうと思う。
 昔の人がからくり人形とか、幻灯を見た感じと言えばよいだろうか。
 初期のウルトラシリーズで多くの異色作を作っていた実相寺昭雄は、晩年まで実写による「特撮」にこだわっていた。リアルと区別がつかないのが必ずしも良いわけではない。

 結局、作り手のパーソナルな思いが見える作品の方が、僕は好きなのだと改めて思った。

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