NHK夜ドラ「わたしの一番最悪なともだち」

音楽、絵画、ドラマ

10月17日

 大学教員にしてTVドラマ愛好家の畏友Hが、自信を持ってお勧めするというので見たのだが、結構ハマった。上手くは言えないが、あまり見たことのないタイプのドラマだと思った。
 二人の女の子の物語。一人は大きな目が印象的な、よく笑う女の子。もう一人は、伏し目がちで、とまどったように片頬をひきつらせた表情が印象的な子。主役は後者である。「一番最悪」は重複語だが、初回で主人公が小学生の男の子から指摘を受けていた。この主人公はおそらく、何かあると「サイアク」と呟くような子なのだろう。今風の言い方では「陰キャ」である。
 笠松ほたる(演 – 蒔田彩珠)には、小学校から大学までずっと同じ学校に通う、鍵谷美晴(演 – 髙石あかり)という幼馴染がいる。自分を優柔不断と思うほたるは、奔放に見える美晴に劣等意識を持ち、過剰に意識してしまっていた。就職活動がうまくいかず、焦り始めた頃、美晴がほたるの生活圏に闖入してくることが増える。ほたるは本命の企業のエントリーシートに、こうありたいと思う存在である美晴のことを書いて提出し、その後その企業から内定をもらう。そのことを美晴に謝罪しようとするが果たせず、三年が過ぎる。就職した会社で、商品開発プロジェクトのリーダーとなったほたるだが、開発計画は頓挫してしまう。恋人との関係もいったん白紙にして、自分を見つめ直そうと休暇を取って故郷に帰ると、そこには美晴がいた。
 こうやって書くと、これで15分×32回も持たせられるのかと思うような話だが、これがそうでもないのである。僕は見ていて何度も涙腺が刺激された(泣きまではしなかったが)。62才のジジイが若い女の子に感情移入するのはおかしいかもしれないが、僕は長く高校の教師をしていたので、若い子の気持ちがわかるとまでは言わないが、自分が若い頃の気持ちをよく覚えているのである(進歩していないともいえるが)。
 僕は子供の頃、何より運動が苦手で、劣等感の塊だった。そのくせ自分は人とは違うとも信じていて、それを表現するすべも勇気もないことに悩んでもいた。中学国語の定番教材に、安岡章太郎の「サーカスの馬」があるが、その主人公の劣等生の少年にいたく共感した覚えがある。ほたるは他人事ではない。
 ほたるが思う美晴は、周りに流されず、超然としているのに、寸鉄人を刺すような一言を言う。かと思えば周りが行き詰まった時に起死回生のアイデアを出す。大学ではダンス部のリーダーとしてピカピカに輝いている、という存在だ。ほたるはそんな美晴を出来るだけ視界に入れないようにしていた。
 ところが終盤に語られる、美晴の側の認識はそれとは全く違った。美晴は自分を「手の届く夢しか見られない」人間だと分析し、ほたるのことを、うまくいかない状況でも前向きに頑張っている凄い子だと思っていたというのである。それを聞いて当惑するほたる。「いやいやいやいや」「いやなん?」「いや、そのいやじゃなくて…」というやり取りが笑える。
 二人の共通の知人で、よき理解者であるクリーニング店主(演 – 市川実日子)は二人を共生関係と評する。二人はまったくタイプが違うし、普通の親友同士のようにファーストネームで呼び合わない(笠松さん、鍵谷さんと呼んでいる)。結局二人とも自分を過少に、相手を過大に評価していた。自分以上に相手をよく観察していたということなのだろう。
 このドラマの魅力は、こうしてネタバレしても失われないと思う。ストーリーは予定調和だが、毎回、細部が結構面白いのだ。少しだけ例を上げると、ほたるは朝一番に鏡を見て、面白い形の寝癖をスマホで撮影して保存しているというような子だ。ただの陰キャではないのである。ただ一人心を許せる男子学生(毎度ヘンテコなTシャツを着ている)とのやり取りも笑える。
 一方で隙も多く、突っ込みどころは満載だ。一番気になったのは、学生時代のほたるの部屋が綺麗すぎること。最近の学生はあんなお洒落な部屋に住んでいるのか。登場人物が一人の例外もなく良い奴だし、今時「自分を見つめ直したい」という理由で、無期限の休暇をくれる会社なんてあるのか? まあ、これはこの「夜ドラ」全体の傾向かも知れない。
 というわけで、僕はけっこう楽しんだのだが、主人公たちと同じ世代にはこのドラマはどう映るのだろうか、知りたいところだ。
 最後に、この作品の魅力は舞台である街(神戸)の美しさにもある。もちろん、良い場所を選んで撮影しているのだろうが。そういえば主人公たちの世代は、あの震災を直接は知らないのだなと改めて思った。

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