3月23日
3月14日、21日の二回にわたってNHKBS4Kで放映された「悪魔の手毬唄」を視聴した。
前回、「犬神家の一族」の時は二回に分けて感想を書いたのだが、前篇を見ての期待が強すぎ、後編を見て失望したため、①と②でかなり落差の激しいレビューになってしまった。その反省もあって今回は全編見終えてから感想を書いている。(以下、ドラマと原作のネタバレあり。未見、未読の方は注意してください)
2月8日の投稿でも書いた通り、昨年の11月から12月に収録されたということなので、原作の最大の魅力である夏の風物詩が出てこないことは予期していた。また、脚本家は「犬神家」と同じ人なので前回同様に大きな改変があるかもしれないとも思っていた。
全編を見終えての感想。結論から言えば残念な点の方が多かった。まず、今度も「ゆかり御殿」は登場せず、「火と水と」の章は描かれなかった(2022.1・21~26の投稿参照)。これまでわずかなりと「ゆかり御殿」が登場したのは映像化作品では2009年の稲垣吾郎版(佐藤嗣麻子脚本)のみだ。
ずいぶんこぢんまりとまとめたという印象だ。ゆかりの歓迎会も、原作は青年団主催の大盆踊り大会なのだが、ここでは小学校の誕生会くらいの規模になっていた。登場人物を圧縮するためか、壁に映る老婆の影を見るのは千恵子と里子になっていた。
鬼首村はとても広い村で、原作はその地理も犯人当てのロジックに重要な意味があるのだが、これまでそこに言及した映像化作品は皆無だった。今回は「亀の湯」や放庵宅が村の中心部からかなり離れている言及はあったものの、結局全く生かされていなかった。
前後編で三時間というせっかくの長さが生かされていないと感じるのは、回想シーンが長いせいもあるだろう。
いきなり、戦前の神戸の場面から始まったので嫌な予感がした。これはリカ(演・宮沢りえ)の夫の青池源治郎が青柳史郎の名で活弁師だった頃の回想だからだ。さらに、まだ前篇の段階でまたも神戸時代の回想場面が長々と映し出されることになるに至り、いやな予感はどんどん膨らんだ。早い時点で事件と直接関係ないリカの前半生の回想が出てくる時点で、もうリカが犯人だと言っているようなものではないか。
「悪魔の手毬唄」という作品はあまりにも有名で、過去に何度も映像化されているが、もともとの原作は謎解き・犯人当ての本格ミステリーである。1977年の映画化の際には、封切り前にリカ役の岸恵子が記者会見等で自分が犯人であることをばらしてしまい、原作者の横溝正史が激怒したという逸話もあるくらいだ。
映像化作品では、原作よりもリカの比重が増えるのはやむを得ないとはいえ、リカを悲劇の主人公にするためか、周りの人間を原作以上に悪人にする傾向がある。
例えば多々良放庵。原作では金田一耕助が放庵を評して、「恐喝というような卑劣なことはやるひとじゃないが、手毬唄殺人みたいなとほうもないことなら、やりかねまじきひと」と言っているが、映像化作品では常に色と欲にまみれた人間に描かれてきた。今回の笹野高史は原作のイメージにぴったりで、そういうイメージを払拭してくれるかと期待したのだが、結局は変わらなかった。
仁礼嘉平の西岡徳馬も適役で、これまでの傲岸不遜な人物像を覆してくれるかと期待したが、あまり存在感がなかった。歌名雄と勝平のけんかを一喝して止める役は原作では嘉平なのだが、ドラマではリカに取られている。
リカの夫である青池源次郎は、原作では女好きという面はあるが、最初から詐欺師だったわけではなく、同情すべき点もある人物とされている。今回のドラマは長い回想シーンでその酷薄さ・醜悪さを強調している。これもリカの悲劇性を高めるためだろう。
ちなみに、源次郎のワルぶりをこのように前面に出してきたのは、2019年の加藤シゲアキ版だった。今回の脚本はかなりこれを踏襲しているように思える。2019年版で僕が一番問題だと考える改変を今作も引き継いでいるからである。それは、謎の老婆おりんの出現と、放庵の失踪、そして泰子の殺害を同じ日の出来事にしているということだ。脚本家の立場からするとうまくコンパクトにまとめたくらいの気持ちなのかもしれないが、本格ミステリーとしては、これは絶対にNGだ。以前も同じことを書いたが、これだと犯人はまず、金田一の先回りをして老婆の扮装をした姿を見せ、次に放庵の家を訪れて放庵を殺害し、死体を隠す。その後で今度は泰子を連れ出して殺害し、枡と漏斗を使った見立てを施す。これだけの作業を一夜のうちに、中年女性(当時の感覚ではむしろ初老)がたった一人で、自動車などの移動手段も使わずに行ったことになってしまうのだ。
青年団による山狩りが強調されるのも19年版以来だ。原作では里子の通夜の夜(すなわちゆかり御殿が炎上する「火と水と」の夜)に行われるだけなのだ。これらからして、今回の脚本は原作よりもこの19年版を引き継いでいる気がするのだ。
さらにこの脚本家は、結末を一ひねりして独自解釈を付け加えることに強いこだわりがあるようで、前回の「犬神家」でも、金田一が佐清を問い詰めるシーンを付け加えていた。今回はそれが五百子(演・白石和子)だったわけで、リカを追い詰めて犯罪に走らせたものの正体がこの五百子や放庵の旧弊な差別主義だったと言いたいのだろう。だが、僕に言わせればこういうのは脚本家の自己満足でしかない。
原作を未読の方がいたら、是非読んでみてほしい。定年間近の磯川警部、中年になった金田一、本多老医師、苦労人の嘉平などのやり取りも味わい深く、ただ陰惨なだけの映像化作品とは一味違うのを実感なさるはずだ。

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