「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」

音楽、絵画、ドラマ

11月12日

 リアルと区別がつかないフェイク映像が、そこいらじゅうに溢れている今日の目から見ると、昔の特撮映像はとても残念に思える。エポックメイキングな作品だった「ゴジラ」や「ラドン」にしても、今見るとアラが目立つ。子どもの頃TVで見て、夜眠れないほど怖かった覚えがある「美女と液体人間」なんて、半世紀ぶりぐらいに日本映画専門チャンネルで見たら、もう笑うしかないほどチャチだった。そんな中で、東宝円谷特撮映画の最高傑作はといえば、僕はこの作品を推したい。
 スケールの大きな特撮映画は他にもっとあるが、この映画は見せ方がとても上手いと思う。1966年の封切りなので、70年の正月に亡くなった円谷英二の晩年の作品ということになる。実際には有川貞昌、中野昭慶、さらには川北紘一といった次代を担うスタッフが頑張っていたのだろう。ウィキペディアには、せっかくの羽田空港のセットの広さを生かし切れていないとして、特撮の質が落ちていたというスクリプターの方の意見が書かれているが、それはどうだろう。
 この映画では、怪獣が巨大すぎないことが、リアリティーにつながっていると思われる(怪獣図鑑では、サンダ30メートル、ガイラ25メートル等となっているが、映像ではそれより小さい感じだ。また、確かにサンダの方が少し大きいが、そこまでの身長差はない)。漁船から覗き込んだ水中でうごめくガイラや、地引網を引く男女の向こうに現れるガイラ、山道で霧が晴れると現れるガイラなど、印象的なシーンが多い。羽田空港のシーンでも、引きの構図で海から現れるガイラが次第に大きくなってくる映像はとてもリアルである。特撮部分と実写部分とのバランスがいい。夜の場面が多いのもアラを目立ちにくくしている。
 実はこの映画は僕が生まれて初めて映画館で観た映画なのである。記憶では市川の本八幡にあった映画館で、祖母と兄と三人で見たはずだ。終わってから、祖母が怖くてほとんど目をつぶっていたと言っていたのを覚えている。実際、海に落ちた船員が必死で泳いでいると、後ろからガイラが迫ってくるシーンなどはとても怖かった。リアルな合成には、「ウルトラQ」の製作につながったといわれる当時最新鋭のオプチカルプリンターが活躍したのだろう。
 今でも活躍している(老婆役などをやっている)水野久美がヒロイン。ハスキーな声で知的な感じがいい。スチュワート博士の声が睦五郎なのもいい。「逃亡者」のキンブル医師の声をやった人だ。デヴィッド・ジャンセンの吹き替えを別の人がやったのを見たことがあるが、まるでしまらなかった。劇中、ガイラに襲われる歌姫が歌っていた歌は、てっきりアメリカンポップスだと思っていたが、伊福部昭が書き下ろしたものだと知って驚いた。こんな小洒落た曲も書けるのか。いずれにせよ、僕にとってこの映画は、大人になって見返してガッカリしなかった珍しい映画の一つなのだ。

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