6月14日
NHKよるドラの「ミッドナイトタクシー」を見ている。一話15分の全32回で、今二週8回分が終わったところだ。兵頭るりのオリジナル脚本。この人の作品は、同じよるドラの「わたしの一番最悪なともだち」を見ていて、この欄で感想も書いた。そのドラマはもうかなり忘れてしまっているが、「このドラマの魅力は、こうしてネタバレしても失われないと思う。ストーリーは予定調和だが、毎回、細部が結構面白いのだ。少しだけ例を上げると、ほたるは朝一番に鏡を見て、面白い形の寝癖をスマホで撮影して保存しているというような子だ。ただの陰キャではないのである。ただ一人心を許せる男子学生(毎度ヘンテコなTシャツを着ている)とのやり取りも笑える」などと書いていた。今回も細部までよく作り込まれていて、ストーリーという程のものはなくとも、毎回会話が面白い。セリフ以外の小道具等に至るまで、こだわって丁寧に作られているのが伝わってくる。朝日新聞の紹介記事には「登場人物の背景に踏み込み過ぎず、会話や細かな描写でこちらの想像をかきたてる」とあった。この人の作品の魅力をよく伝えていると思う。
前回の「わたしの一番…」が新進気鋭の作家のお試し作品だとすれば、今回は凱旋作品となろうか。兵頭るりは昨年向田邦子賞を最年少の28歳で受賞している。受賞作の「マイダイアリー」の他、今期は「時すでにおスシ!?」という連ドラも手掛けているまさに売れっ子なのだ。僕が注目しているのには、彼女が「シナリオセンター」の出身者だからという理由もある。
僕は現在縁あって「いよなん」という文芸同人に所属しているのだが、僕以外のメンバーは全員この「シナリオセンター」の出身者なのである。彼らの書いたシナリオを読ませてもらったことも何度もある。各種コンテストに出品してかなりの所まで行くが受賞には至っていないのだ。だから、華々しい受賞歴を持つこの作家の評価されるポイントを探りたいという思いもなくはない。
ドラマの主人公は蘭象子(あららぎしょうこ)という女性タクシードライバー。「特別話が面白いわけでも、特別気配りができるわけでもない。しかしなぜだか、彼女に出会った人は皆、ふとその夜のことを思い出す」というナレーション(リリー・フランキー)で話が始まる。この主人公を演じている古川琴音は、当て書きしたのかと思う程ハマっている。この人、同じNHKの「犬神家の一族」では野々宮珠世を演じていたので驚いた記憶がある。珠代は原作には、「日本にふたりとはあるまいといわれるほど美しい」女性だと書かれており、市川崑による二度の映画化では島田陽子と松嶋菜々子が演じていた役だからだ。だがこの時も見ているうちに違和感はなくなった。正統派美人ではないが不思議な魅力のある人だ。
彼女のタクシーに乗り込む個性的な客たちの単発エピソードを積み上げながら、次第に謎めいた主人公の過去が明かされてゆくという構造なのだろう。レギュラーとして喫茶店のマスター役の竹中直人、主人公の伯母役の和久井映見。ゲスト陣もNHKらしく贅沢だ。焼き芋が売れると「仕留めた」という気分になると語る焼き芋屋役の板尾創路など、これだけで終わるのは惜しい。
普段の象子は、魔法界から人間界にワーキングホリデーで来ていると聞いても眉一つ動かさないのだが、第八話ではその象子が珍しく感情をあらわにするシーンがあった。ひょんなことから共にシャッターに絵を書くことになったアーティストのナオ(莉子)に対してである。彼女からユニットを組もうと誘われて拒絶する場面。ここでナオの「弱さ」を指摘しつつも、「大丈夫だよ。あなたが玄関でちゃんと靴を揃えてくれてたの、知ってるよ」という。これはその少し前にジゴロふうの客(中村蒼)が言った言葉のささやかな「伏線回収」にもなっている。
これから主人公の「余白」が少しずつ埋まっていくのだろうが、陳腐な話でなければ良いと思う。まあ、この作者なら期待は裏切らないだろうと思うが。

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