「ミッドナイトタクシー」②

音楽、絵画、ドラマ

7月28日

 NHK夜ドラ「ミッドナイトタクシー」が終わった。1回15分×32回で、CMなしのNHKだから、正味8時間。それを週ごとにまとめて1時間ずつ見ていた。
 前回も書いたことだが、僕がこれを見ようと思ったきっかけは朝日新聞の紹介記事だが、脚本が兵頭るりのオリジナルだからである。この人はシナリオセンター東京(通称シナセン)の出身者で、向田邦子賞を最年少で受賞した今最も勢いのある新進作家なのだ。
 30歳目前の女性深夜タクシードライバー(古川琴音)と客たちの交流を描いたドラマなのだが、最初のエピソードはうっかり者の女性(常松祐里)が同じ生年月日だと思って親しくなった女性(さとうほなみ)とともに乗車するが、実は二人は十二歳離れていて…、という話。タクシーの中で飴をなめている間だけ嘘ばかり言い合うというゲームをするという展開になって、飴をなめなかった主人公は、名前はアララギショウコ(なにそれ、アニメのキャラクター?とツッコミが入る)、生まれたのはアフリカと答える。二人の嘘話より奇抜に聞こえるこれらが実は本当で、主人公の紹介になっているというあたりがなかなかスマートである。
 同じ作者の「わたしの一番最悪なともだち」では、昆虫になって(なったつもりで)、普段言えないことを吐露しあうというゲームを大まじめにやっていたのを思い出した。

 前回投稿で、「彼女のタクシーに乗り込む個性的な客たちの単発エピソードを積み上げながら、次第に謎めいた主人公の過去が明かされてゆくという構造なのだろう」と予想したが、結局生き別れた母親(山本未來)は、最終週にたった一話登場するだけで、親子の間に具体的に何があったのかは最後まで明かされなかった。どういう過去があれば、彼女のような人物が出来上がるのか、納得できるような過去を作ることは所詮無理だろう。物語としては隙だらけなのだが、それでいいのである。
 多彩なエピソードゲストは、魔法使いに未来人に幽霊まで。出ていないのは宇宙人ぐらいだが、それも「一度乗せたことがある」と劇中で言っていた。だいたい一話から二話で一つのエピソードが完結するので飽きることはないが、ちょっと微妙だなと感じる話も中にはあった。

 ドラマ愛好家の畏友Hは、主人公と後輩の女性ドライバー(小林桃子)とが対峙する回を絶賛していた。その後輩女子は常にマスクをしており、そのことで男性客から絡まれたことをきっかけに、「とてもやってられない」という気分になったという。その客に見せてしまったマスクの下には傷があったのだが、ドラマではその傷の理由は語られない。そういう所も「隙」である(畏友Hは「品格」と評していたが)。美容整形で治せるのでは、とかコンシーラーで隠せばいいとかも思うのだが、当然そういう話にはならないのだ。「傷」はあくまで象徴的なものだからだろう。彼女が「とてもやってられない」と心折れてしまったのは、もともと「人の役に立ちたい」「ありがとうと言われたい」という思いがあったから(「ただの承認欲求なんですよね」という自嘲も忘れない)だ。
 畏友Hが注目していたのは、彼女を気遣う主人公に向かって「ありがとうございます…って言えたらなあ」といい「(私を)わかろうとしないでください。先輩に優しくされればされるほど、自分の弱さを思い知らされる気がして辛いです。先輩みたいに完璧なヒトは、そっと離れたところから見ていてくれるだけでいいんです」という言葉だ。畏友Hは「やれやれ。いかにも現代的な自意識の病魔なことよ」と慨嘆していた。
 厭でも思い出すのは、「わたしの一番最悪なともだち」である。こちらの主人公は、彼氏との交際のきっかけになった自分の美点も、ただ理想の私を演じただけと感じているような「面倒くさい」女の子だった。

 「わたしの一番最悪なともだち」は、コロナ禍のもとで就活する女性の等身大を描いたことで今とリンクして実在感があったのだが、今作はあまりにもおとぎ話過ぎるのか。登場人物はすべてなんらかの葛藤を抱えているとはいえ、ウクライナもガザもイランも、「国旗損壊罪」も関係ない世界。もちろんそれが悪いわけではない。
 さすがはNHKで、細部まで丁寧に作り込まれ、音楽もいい。キャストも贅沢。この作者は本当に、うらやましい。

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