4月25日
4月22日放送の「犬神家の一族・前編」を見た。前作の「八つ墓村」の最後で、次作が「悪魔の手毬唄」だとほのめかされていたので、この作品を偏愛する僕はちょっとだけがっかりしたが、そういえば「犬神家の一族」がまだだったのか。
「犬神家の一族」については以前(2021年11月16日投稿)も書いたが、市川崑の映画によるイメージが強すぎる。映画は名作には違いないが、原作から改変されている所も多い。映画を、オリジナルだと思っている人も多いのではないか。
その時にも書いたことだが、「犬神家の一族」と言えば、なんといっても湖面から突き出た二本の足を思い出す人が多いだろうが、あんな風に水面に死体を固定させることはまず不可能だ。原作小説では、この時湖面は結氷していた。浅瀬を選んで泥に逆さまに突っ込んでおいた死体が、朝の冷え込みであんなふうに凍結したのだという説明になっている。しかし、物語の前半には殺された佐武の首が、菊人形の首とすげ変えられているという場面もある。菊人形の時期のすぐ後に湖が凍るとは考えられない。実は原作では2か月にも及ぶ時間経過を、映画ではわずか数日に圧縮しているのである。原作では金田一がスキーに乗って容疑者を追跡する場面もあるが、当然映画ではカットされている。
これも以前も書いたことだが、横溝の長編推理小説の魅力を余すところなく伝えるためには、2時間程度という尺では足りないのである。その点今回は、前後編の二回に分けての放送で、それぞれ90分である。CMのないNHKだから正味3時間ということになる。これは期待できる。BSNHKではかつて「深読み読書会」という番組で「犬神家」を取り上げたこともあるのだから、是非ここは原点に立ち戻ったドラマ作りをしてほしいものだ。
前置きが長くなったが、前編を見た。映画では中村敦夫が渋く演じていた古舘弁護士役を、コメディーのイメージの強い皆川猿時が演じるなど、意図してなのかわからないが、従来のイメージを覆すキャスティングが多いように思える。猿蔵は大男のイメージだが、演ずる芹澤興人は男性としては小柄だ。原作には「日本にふたりとはあるまいといわれるほど」美しい女性だと書かれている野々宮珠世は、かつては島田陽子や松嶋菜々子といった,ぱっと人目を引く「美女」が演じてきた。古川琴音という人は、おそらく昭和二十年代では美人の範疇に入らなかっただろう。だが、見ているうちに違和感はなくなった。不思議な魅力のある人だ。
小林靖子の脚本は実に丹念に原作を読み込んでいることがわかる。実際、何度も映像化されている作品の場合、本当に原作を読んでいるのか疑わしく思えるものも多いのだ(このことについても以前書いた)。ただし、金田一の下宿での女将(倍賞美津子)とのやり取りは不要と思えた。改めて思うのは、小細工なしに原作をなぞるだけで充分におもしろいということだ。後編が楽しみである。予告編で見ると、例のスケキヨの逆さまの足は原作通り凍った湖面から出ているようだ。ただ、この吉岡秀隆金田一のシリーズでは「悪魔が来りて笛を吹く」のように、ラストを大幅に改変した例もあるから、まだまだ安心はできないが。
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