雨男・雨女

7月20日

 朝からギンギンに暑い、今日は35℃予想。ついこの間までの雨の多い、ぐずついた天気がまるで嘘のようである。なぜか唐突に、「究極の雨男」を自称していた古い友人のことを思い出した。彼が内モンゴルを旅した時、何か月も日照りに苦しんでいた町に、彼の乗る飛行機とともに雨雲が到来、激しい雨を降らせたというのである。彼はその町で歓待を受け、出発する際には行かないでくれと懇願されたのだとか。しかしこれは、ちょっと考えても突っ込みどころ満載の話である。何か月も雨が降っていないなら、そろそろ降る頃合いだったのだろうし、その飛行機に彼だけが乗っていたわけではあるまい。そう言っても彼は、自分こそが雨男なのだと譲らない。ふざけているのではない。むしろ生真面目な男なのだ。
 雨男、雨女だという人に話を聞くと、入学式や遠足、運動会といったライフイベントがことごとく雨だったなどと言う。それが本当だとしても、その地域の同年代の子どもはみんな同じ条件の筈ではないか。こういう人は一般に感受力が強く、まじめで責任感がある。つまり暗示にかかりやすいのだ。もしも大事な催しが雨になったら、こう言ってみると良い、「おかしいなあ、この中に雨男か雨女がいるでしょう」と。必ず手を挙げる人がいるはずだ。
 ということで、ここで旧詩を一つ。

雨女

晴れ女ってよくいうけど
あれはいないのよ
だってそうでしょ
その女の頭の上だけが
抜けたようにいつでも晴れている
そんな女がいるもんですか
でもね
雨女は確かにいるわ
―あたしがそうなの

場末の酒場の止まり木に
足をぶらぶらさせて
唄うようにその女は言った
入ってきた僕を目にとめるなり
ずっと待っていたのよと叫んだ

それは本当に雨女だった
夜をまとうように
雨をまとっていた
髪も睫毛もじっとりと濡れていた
きっと肢の付け根のあたりも
濡れているに違いなかった

思い出せる最初の記憶が
すでに雨の日なの
それからずうっと耳の奥に
雨音が鳴りっぱなしで
でもあなたが約束してくれたから
私を救い出してくれるって だから
ずっと待っていたのに

そう言われると確かに
いつかこの女と約束したような
そんな気もしてくるのだ
それで僕は美術館やら
音楽会場やらを
女を探して歩き回ったのだったか

心がずぶぬれで
凍えそうだから
あたしはここよって叫んでたのに
あなたは見当はずれのところばかり
そんな晴れがましい場所になんか
あたしがいるはずないのに

僕の髪から雨のしずく
それを見て
女は歓喜の声を上げた
僕は約束を果たせたのだろうか
目のなかが濡れてきて
女の姿が見えなくなった

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