気になる言葉「任用」

詩、ことば、文学

3月25日

 「再雇用警察官」というTVドラマが(原作小説も)ある。高橋英樹扮する、窓際部署に配属された「再雇用」の元刑事が、持ち前の洞察力と現役時代に築いた人脈を使って鮮やかに難事件を解決するというお話。ただし勿論これはフィクションだ。なぜなら公務員には再雇用制度はなく、あるのは再「任用」制度だからである。
 思い返すと僕が若い頃、学校には再雇用の先生が何人かいた。授業は持っても週に3、4時間程度、あとは図書館の本の整理とか、進路部に来た求人票の整理などをしていた。あくまで定年まで勤め上げて、なお働こうという人の「余禄」というイメージだった。
 今の再「任用」はそんな甘いものではない。現役時よりはるかに少ない報酬で、仕事量は現役と全く同じかそれ以上。学級担任になることもある。それでも希望する人が多いのは、これまた言うまでもなく、年金支給開始年齢が引き上げられたせいだ。
 話は変わるが、最近は自治体等で住民サービスの「窓口」として働いている人にも、「非正規」の人が多いということをご存じだろうか。今や自治体職員の3分の1は非正規雇用と言われている。市民の側からすれば「役人」と見える人が、実は臨時(ないし非常勤)職員だったりするのだ。「会計年度『任用』職員」と呼ばれ、雇用期間は一年限りなのが大きな特徴だ。
 おっと忘れていた。このブログで問題にしているのはあくまで「言葉」である。僕は「任用」とは熟さない言葉だと思い、役人が考え出した言葉なのかと疑っていた。だがそれは恥ずかしい勘違いで、小学館の国語大辞典には「人を職務に付けて使うこと。挙げ用いること。任命。登用」とあり、続日本紀と神皇正統記の用例も載っている。「任用」は平安時代から使われている非常に古い言葉だったのだ。
ということで、これで問題は解決かも知れないが、もう少しお付き合い願いたい。同じ国語大辞典で「雇用」を引くと、本来は「雇傭」であるとした上で、「やとうこと。特に当事者の一方(労務者)が相手方に労務を提供し、相手方がこれに報酬を支払うことで成立する契約。民法六二三条に規定。民法は対等な当事者間の自由な契約として規定しているが、実際には労働関係法規の適用によって修正される場合が多い。雇用契約」と、かなり詳細に述べている。比較してわかるのは「任用」には法的な定義がないということだ。平安時代からある「任用」という言葉は、公が命令して個人をとりたてることで、この延長には「徴用」「動員」があるのだ。曲がりなりにも使用者と労務者が対等な「雇傭(用)」とは全く別物だ。
 「任用」は行政からの命令だから、雇用=労働契約ではないというロジックで、労働契約法が適用されない。そこで前述した会計年度任用職員などは、国や自治体の都合でいつでも任用中止という名の実質解雇が出来てしまうのだ。こんな恐ろしい言葉がゾンビみたいに生き続けている現状は嘆かわしいとしか言いようがない。

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