気になる言葉「帰化人」

詩、ことば、文学

7月18日

 SNS等で最近「帰化人」という言葉を見ることが増えた。ある政党の政策を批判する投稿に対して、その政党の支持者が「あなたは帰化人ですか」などと書き込んでいるのをよく見かけるのだ。
 僕(1961年生まれ)が、昔学校で学んだ歴史の授業の中では、五世紀ごろから平安時代初期くらいにかけて、朝鮮半島から日本列島に移住して様々な技術や文化を伝えた人々のことを「帰化人」と呼称していた。今はこの言葉は教科書からは姿を消し、「渡来人」と呼ぶことになっているようだ。
 一方、他の国の国籍を取得して、その国の国民になることを「帰化」というのは今も普通に使う言葉だし、戸籍法にも使われている法律用語でもある。だが、日本国籍を取得した元外国人の芸能人やスポーツ選手に向かって「帰化人」と呼ぶのを聞いたことはない。
 歴史教科書から「帰化人」が消えたのは当時の移住の実態を反映していないという判断による。「帰化」という言葉には、「王者の徳を慕って帰順する」という意味があるのだ。この点については、ニッポニカ(日本大百科全書)の以下の説明がわかりやすい。
「『帰化』という語は、もともと古代中国の中華思想に基づき、周辺の異民族が中国帝王の王化を慕って帰順し、その国家的秩序に従うことを意味したが、7世紀~8世紀に中国の国家制度に倣って律令国家を樹立した日本の支配層は、同時にそのような中華思想も受容して、それ以前に海外から日本に移住してきた人々を全て天皇の徳を慕って『帰化』したものとみなした。すなわち、古代の渡来者を一括して『帰化人』と称するのは律令国家支配層の歴史観に基づく見方であって、7世紀以前の日本列島にまだ帰化すべき国家の確立していない段階の渡来者に用いる歴史用語としてはふさわしくない」
「また、『帰化』の語は、今日においても外国人の日本国籍取得を意味する法律用語として用いられるが、明治以降の『帰化人』の多くが朝鮮人・中国人であり、これらの人々を日本人と異なる、差別・蔑視されるべき人々とする偏見が、日本の朝鮮・中国に対する植民地支配・侵略の思想的背景にあった。古代の渡来者を『帰化人』と見る歴史観は、このような東アジア近隣への日本の支配を遡及させて正当化していこうとする誤った観念に陥りやすいという指摘も考慮されるべきであろう。[菊池照夫]」
 「あなたは帰化人か」と書き込んだ人には(実際にはもっと尖った物言いだが)、そこまでの意識はないのかもしれないが、この言葉にはそういう「思想的背景」があることを理解しなければならない。また、理解した上であえてこの言葉をチョイスする人が増えているのだとすれば、やはり危険な兆候だろう。デモの参加者に向かって、「お前ら日本人じゃないだろ」と罵声を浴びせる人たちのことは以前の投稿「『デモ嫌い』の国」でも取り上げた。自分たちと意見が違うだけで簡単に、「外国人」「反日」などと呼ぶ風潮に、また一つ嫌な言葉が増えてしまった。

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