インフルエンザ狂騒

食、趣味、その他

12月12日

 インフルエンザに罹患してしまった。教員を辞めてからは初めてで、いつどこでもらって来たのかもわからない。12月8日の夜8時頃、その前から少し重怠さがあったが、寒気もしたので体温を測ってみると38.3度Cだった。だがこの時点では早めに休めば明日には回復するだろうと考えていた。
 ところが翌朝は39.3度C。これはただ事ではない。我が家から徒歩3分ほどのところに内科のクリニックがあるのだが、コロナ禍以来完全予約制になっていて飛び込みでは診てもらえない。30分ほど粘ってようやく電話がつながった。すると午後一時に来てくれという。この時点で午前十時。3時間もある。迷った。駅近くの別のクリニックは十一時半から予約なしでの発熱外来を受け付けているのを知っていたからだ。寒空にかなりの行列が出来ていることもある。やはりぎりぎりまで温かい室内にいた方が精神衛生的はよさそうだ。一時の予約でお願いするというと今度はWEB問診をしておくように言われた。WEB問診は、「どんな症状か、いつからか、市販薬を服用したか、服用した場合その名前」から、アレルギー、既往症、手術歴、常用している薬の名前など多岐にわたり、スマホの小さな画面が見づらく、やっているとどんどん具合が悪くなってくる。それでもどうにか送信完了した。
 1時少し前に到着。当然ながら待たされることはない。体温を改めて測ると39.9度C。右手の人差し指をホチキスみたいなので挟まれる。これが例のパルスオキシメーターというやつか。データは教えてもらえなかったがレントゲンを撮る話にはならなかったので、肺炎の心配はないということなのだろうか。代替わりしたのか、若い医師が長い綿棒を鼻の奥にまで入れた。検体を取って数分、「インフルエンザのA型が陽性、コロナは陰性ですね。インフルエンザウイルスの活動を抑える薬を処方しましょう」と言う。僕が「できればタミフルじゃないのにしてほしいんですが」と言うと、医師は「わかりました」と応じた。これにて診察終了。
 実は二十二年ほど前にも、僕はここでインフルエンザの診断を受けていた。その日の朝起きた時、それまでに経験したことがないほどの寒気で胴震いが止まらず、歯の根が合わずにカチカチ音を立てた。この時点ではそこまでの高熱ではなかったが、すぐに仕事を休むことを決断し、当時は予約制ではなかったこのクリニックに朝一番で受診した。老医師は綿棒を鼻に突っ込んで検体を取ると、しばらくして「A型だね」と言った。「はい」と僕が言ったのは血液型を問われたと思ったからだった。もちろんそんな筈はなく「インフルエンザA型」のことだったのだ。そしてこの時初めてタミフルを処方された。一分一秒でも早く飲んだ方が効果があるというので、すぐに薬局に回り、帰宅するやすぐに服用して布団を被って寝た。そして夕方目覚めると嘘のように症状は消えていた。まさに劇的に効いたのである。
 だがその後、二度ほどインフルエンザに罹患した時には、もうタミフルは期待したほど効かなかった。薬剤耐性を持つウイルスが現れたせいもあるだろう。だから今回は違う薬を希望したのだ。今回「ゾフルーザ」という薬を処方された。薬局の待ち時間も最近はやけに長い。帰宅して服用できたのは午後二時過ぎだった。
 ゾフルーザはまだ認可されて6年ほどの比較的新しい薬で、一番の特徴は一回服用するだけで完結するということだ。そして今日12日の朝、解熱剤が切れている状態でようやく平熱の36.3度Cに戻った。「劇的」には効かなかったが効果がなかったわけではないと思う。発症したのが8日の夜8時。ゾフルーザを服用したのが翌日の午後2時だから、16時間も経ってしまっているのだ。「一分一秒でも早く」という意味では完全に後手だったのだが、僕には如何ともしがたかった。そして何より20数年前とは僕自身の体力もだいぶ違う。コロナの時でさえ食欲が落ちなかった僕が、今回はかなり食べられなかった。衰えた。

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