横溝正史・「湖泥」

詩、ことば、文学

5月27日

 学生時代に「湖泥」という詩を書いた。僕の第一詩集に載せてある。

湖泥

このみなそこに絡みあふ
みどりなすみづくさ その奥ふかく
ふかみどりたたへた虹彩
じつとしづかなひとみがあるのだ

みどりなすみづくさその奥ふかく
うをのくちにはあやなす真珠
じつとしづかなひとみがあるのだ
ぼくのからだはうみの泥

うをのくちにはあやなす真珠
麝香のかぎろひ立つみぎは
ぼくのからだはうみの泥
岩に刻まれた ぼくのこゑ!

麝香のかぎろひ立つみぎは
みづうみのうへ 陽光(ひ)はゆらめき
岩に刻まれた ぼくのこゑ
何を待ちつづけてゐるのか!

みづうみのうへ 陽光はゆらめき
風にゆれる まるい水の輪は
何を待ちつづけてゐるのか!
やがて音もなく消えて…

かぜにゆれるまあるい水の輪は
《ふかみどりたたへた虹彩…》
やがて音もなく消えて
じつとしづかなひとみがあるのだ
唯 ひそやかなひとみがあるのだ

 一連四行で、2行目と4行目が次の連の1行目と3行目にスライドするという、凝った構成になっている。ボードレールにこうした趣向の詩があり、それを真似たのだが、本家はちゃんと韻も踏み、リズムも揃えている。僕のは形だけの模倣だ。
 「湖泥」は「こでい」と読む。意味はそのまま湖底の泥のことだが、この言葉、実は大きな辞書にも記載がない。僕は横溝正史の短編小説の題としてこの言葉を知った。もしかすると横溝の造語かも知れない。
 この短編は因習にとらわれた寒村を舞台にした陰惨な事件を扱っており、横溝らしいエログロ趣味が横溢した作品(勿論正当な謎解き小説でもある)なので、映像化のハードルは高いと思っていた。
 それが今回、BSNHKの、「シリーズ横溝正史短編集Ⅳ」で映像化された。「ほぼ原作通り映像化」と謳っている作品群である。見て感心した。若干の省略はあるがほぼ原作通りは偽りではなかった。もちろん、性的な表現等は最小限に抑えているが、原作のダークな魅力は損なわれていない。少ない出番だが怖い女を演じた夏帆が印象的だった。また、インヴィジブル・マン役の男性がちゃんと要所に写り込んでいる演出もなかなか「攻めて」いた。先日見た「十角館」もそうだったが、誰もが知るような有名俳優だったらこれはできないだろう。
 そう、この要領で横溝の長編も映像化してほしいのだ。特に「悪魔の手毬唄」を。ただしその場合、磯川警部役のくっきー!は流石に変えてほしいが。いや、意外な好演ではあったけれども。

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