7月11日
テレビの芸能ニュースのコーナーで、「(タレントの)〇〇が、渋谷をジャックしました」とか、「〇〇が電波ジャックしました」などというフレーズを聞くことがよくある。前者は、〇〇がゲリラライブ等を行い、渋谷の街を席巻したということ、後者は〇〇がラジオ番組にサプライズ出演し、MCやレギュラー出演者がかすんでしまうくらい目立ったということを言っているのだろうと思う。ここでの「ジャックする」は、「席巻する」「占拠する」というぐらいの意味である。だが、辞書で「ジャック」を引いてもどこにもそんな意味は載っていない。将来的には載るかもしれないが。
今さら説明の必要もないと思うが、この言葉の元は「ハイジャック(hijack)」だろう。飛行機乗っ取りを意味するこの言葉は、1970年に起きた「よど号ハイジャック事件」で一気に有名になった。ところがその少し後で、今度は瀬戸内海で旅客船の乗っ取り事件が起こる。これを「瀬戸内シージャック事件」と命名したのが誰なのか、捜査関係者か、マスコミ関係者かはわからないが、彼(か彼女か)はこう考えたはずだ。「この事件は、よど号事件とよく似ている。でも飛行機ではなく船だから、ハイジャックという呼称は使えない」と。おそらくこの時彼(又は彼女)の脳内ではハイジャックのハイの部分が、=highと変換されていたのではないか。つまり高い空の上で乗っ取られたからハイジャック、それに対して今度は洋上。それならシージャックが相応しいと思ったのだろう。そして、この二つの事件が引き続いて起こったことで、「〇〇ジャック」といえば、乗っ取り事件を意味するという、いわば国民の共通認識が出来たのである。
その七年後、今度は長崎でバスが乗っ取られる事件が起こると、これが「バスジャック」と呼ばれる事件の第一号となる。それまでのハイ(空)、シー(海)は、乗っ取られたエリアを意味する言葉だったが、今回はバスを乗っ取るからバスジャックという、直截なネーミングである。この段階で、ジャックが一語で「乗っ取り」を意味する言葉に格上げされ、「〇〇をジャックする」という言い方の素地が出来上がったのだ。
だが、そもそもどうして英語(米語)で、飛行機乗っ取りのことをハイジャックというのか。諸説ある中で僕が一番面白いと思うのは次の説である。
辻馬車強盗が、馭者に向かって「ハーイ、ジャック!(やあ、ジャック君!)」と呼び掛けながら銃を突きつけ、ホールドアップさせて馬車を奪うことが流行した。それで、馬車強盗や追い剥ぎのことを「ハイジャック」と呼ぶようになったというのだ。もしこれが本当なら「ジャック」は、単にありふれた男性の名前として選ばれただけの言葉ということだ。それが紆余曲折の末、日本では「乗っ取り」を意味する言葉になったことになる。なんとも不思議な話ではないか。
(付記、これを書いている間いろいろ調べていると、アメリカのスラングでカージャックという言い方があることを知った。ハイジャックと関係があるのかはわからない。ただ、カージャックと言うのは単に自動車窃盗を意味する言葉らしい)。
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