「のろわれた沼の秘密」②

詩、ことば、文学

2月12日

 昨年の11月3日の投稿で紹介した、「のろわれた沼の秘密」の原書「Mystery of the Haunted Pool」の古本が、アマゾンに3,269円(送料込み)で出品されていたので迷わずポチった。その本が先日、(配送トラブルによる遅れはあったが)オレゴン州の書店から無事我が家に届いた。
 あかね書房版が完訳なのかどうか、僕には長らく疑問だった。なにしろ同じ全集の他の19巻はすべて抄訳なのである。早速比べてみる。沼の底から恐ろしい顔がこちらを睨みつけているという場面が、あかね書房版ではちょうど真ん中にあたる99ページなのに対し、原書では全223ページのうちの134ページだった。どうやら訳本は前半部分に少し省略があるようだ。この白木茂訳は達意の名訳なのであるが、ところどころ言葉が古い。例えばポップコーンを、「ばくだんあられ」と訳していたりする。これは、「トウモロコシでもいってたべることにしよう」と言っているのですぐわかるが、「むかし、よく飲まれたショウガ水」がわからない。僕はずっとジンジャーエールのことだと思っていたのだが、該当の箇所には「old-fashioned root beer」とあった。ルートビアだったのである。確かに当時の日本では、ルートビアはほとんど知られていなかった。訳の苦労がしのばれる。昔87分署シリーズを読んでいて、「鮪のサンドイッチ」というのが出てきたことがあった。一瞬、鮪の赤身がパンにはさまっている様子を想像してオエッとなったが、よく考えたら(考えるまでもないと言われそうだが)ツナサンドのことではないか。訳が古いとたまにそういうことがある。
 自分なりに訳して私家版を作ってみたいなどと以前書いたが、読んでみると予想以上に難しい。ジュブナイルなので中学程度の英語力で読めるのだろうと高をくくっていたのだがとんでもなかった。しばらくはこれと格闘することになりそうだ。それにしても、子供の頃読んで夢中になった本の原書に、めぐり会える日が来るとは思わなかった。そして、これもブログを始めたおかげなのである。
 記事を書くにあたり、アマゾン等でこの本を検索している時、今なら原書も簡単に手に入れられるかもしれないということに「初めて」気がついたのだ。この感慨は若い人には理解できないかもしれないが、僕がこの本を読んだ53年前はもちろん、その後も長い間、個人で海外から商品を取り寄せるのは不可能に近かった。クリック一つで世界中から何でも買える時代が来るなんて想像も出来なかったのだ。
 子供の頃、雑誌などで「近未来予測」を読んだことがある。いわく、医学の進歩で癌は撲滅され、感染症もなくなるだろう。立体交差や自動運転技術の発達で、交通事故はなくなるだろう。地球連邦が出来、戦争はなくなるだろうといったバラ色の未来。なぜかよく覚えているのは、中学の時の社会科の教員が「21世紀はフリーセックスの時代になる」と予言していたことだ。残念ながら(?)これはHIVウィルスの出現で真っ先についえた。ベルリンの壁が壊れ、EUが出来た時にはちょっと興奮したが、武力紛争はなくならなかった。医学は日々進歩しているが、癌の根絶には至らないし、耐性菌や新型ウィルスとのいたちごっこが続いている。結局思い描いたような未来にはならなかった。何十億分の一かの責任は、僕にもあるのかも知れないが。
 昔のSF映画など見ると、宇宙船に乗って光線銃を撃ち合っているのに、なぜか巨大なトランシーバーみたいな通信機を使っていたり、計器がアナログだったり、コンピュータの媒体がパンチカードだったりすることがよくある。いわゆるレトロフューチャーであるが、裏を返せば、情報通信技術だけが近未来予想を上回る勢いで進化したということだ。このことは素直に喜ぶべきなのだろう。このブログでは、「昔はよかった」みたいなことばかり書いている気がするが、「今」も捨てたものではない。もちろん技術の使い方には注意が必要ではあるが。

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