70年代の筒美京平

音楽、絵画、ドラマ

4月30日

 筒美京平については過去この欄に三回も書いている。もう語り尽したと思っていたのだが、今朝の朝日新聞BEランキング「今こそ! 聴きたい 筒美京平」を読んだら、また書きたくなった。記事中で音楽評論家のスージー鈴木が「個人的にはやはり編曲まで手がけていた70年代までの曲にひかれます」と言っているが、これは僕も全く同感である。
 ところで70年代の歌謡界には、スターシステムとでも言うべきものが出来上がっていたと思う。「平凡」「明星」という二大芸能誌があり、例えば「明星」を買うと、「ヤンソン」という歌本が付録についてくる。巻頭カラーページにはトップアイドルたちの新譜(当時は年4回、3ヶ月おきに新曲が出るのが決まり)がスコア付きで載っている。次の多色刷りのページには二番手アイドルや演歌スターの新譜、トップアイドルの旧譜、単色刷りのページはそれ以外、洋楽コーナーもあり、最後がその月にデビューする新人アイドル候補生の紹介であった。巻末にはアイドル人気投票の結果発表。トップアイドルへの道はとても険しい。後に「トレンディードラマの女王」と呼ばれる浅野ゆう子(彼女のほぼ唯一のヒット曲「セクシー・バス・ストップ」は筒美がジャックダイアモンドの変名で書いた)や、「二時間サスペンスの女王」となった片平なぎさも、アイドルとしては、必ずしも成功を収めることはできなかった。
 筒美が曲を手掛けた新人とても例外ではない。「汚れなき悪戯」で、ジャニーズ事務所から鳴り物入りでデビューした豊川誕(とよかわじょう)は期待外れに終わり、「時間ですよ」から天地真理・浅田美代子に続く第三の新人と期待された谷口世津の「わたし」もまるで売れなかった。外タレブームに乗って出た優雅(ゆうや)も(2曲目の「胸さわぎ」など、今聴いても凄い曲だが)あまり売れなかった。テレサ・テンの日本デビュー曲「今夜かしら明日かしら」もさっぱり売れず、彼女は次の「空港」(猪俣公章作曲)がまあまあ売れて演歌路線にシフトしてゆく。アイドルではないが、アルフィーのメジャーデビュー曲「夏しぐれ」も売れず、デビュー曲ではないが、ブレイク前のオフコースに提供した「忘れ雪」も売れなかった。
 一方、ひとたびトップアイドルとなれば、何を出しても一定以上のヒットは約束されたようなものだった。その一人が郷ひろみで、筒美はデビュー以来5年近くもほぼ全曲を担当した。スティービーワンダーばりにクラビネットを多用した「君は特別」とか、「恋の弱味」「真夜中のヒーロー」などは、当時としてはかなり「振り切れた」曲だが、それが許されたのも郷だからだろう。もちろん、必要に応じて「よろしく哀愁」「あなたがいたから僕がいた」のような、手堅くヒットを狙える曲も書けるから許されたのだろうが。
 岩崎宏美の「ロマンス」の時、筒美はB面の「私たち」の方を強く推したという話がある。後年NHKの番組でも自ら語っていたから、よほどこの曲に執着があったのだろう。聴いてみると印象的なイントロから、得意のペンタトニックを使った親しみやすいメロディーで、スケールの大きい曲だが、惜しむらくはサビから先が平凡な感じがする。この曲では「ロマンス」ほどの大ヒットにはならなかったろう。独特な愁いがある「ロマンス」を選んだプロデューサーが慧眼だったと思う。
 筒美が「ヒットメーカー」だったのは間違いないが、ヒットするかどうかは曲の良し悪しだけで決まるわけではない。彼は演歌だろうがTV主題歌だろうが、どんなオファーでも受け、非常に多産だったから結果的にヒット曲の数も多くなったのだ。残念なのは、TV番組等で紹介されるのが、たとえば「太田裕美といえば『木綿のハンカチーフ』」というように、常に一択であること。他にも名曲はいくらでもある。もし今僕が選曲して、筒美京平ベストアルバムを作れるとしたら、どの曲を選ぶか考えてみる(ただの1ファンにそんなことできるわけもないが、妄想である)。例えば、
・恋の弱味(郷ひろみ)・女になって出直せよ(野口五郎)・やさしい都会(平山三紀)・モンテカルロで乾杯(庄野真代)・風の日のバラード(渚ゆう子)・来夢来人(小柳ルミ子)・ドリーム(岩崎宏美)・リップスティック(桜田淳子)・ひとかけらの純情(南沙織)・恋愛遊戯(太田裕美)・バラードのように眠れ(少年隊)・夏のクラクション(稲垣潤一)。
 別にムキになってランキング上位の曲を外したわけではない。これでも一応全部シングル盤A面から選んだのだが、他にもいくらでもいい曲はある。チェリッシュもないし桑名正博もない。80年代からも河合奈保子や斉藤由貴も欲しいところだ。それにB面やアルバム曲まで入れたら、もはや選びようがない。明日また選べばまるっきり変わるかもしれない。何とも悩ましい限り(ただの妄想に悩む必要など全くないのだが…)。

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