新潟vs山形 ラーメン戦争?

食、趣味、その他

11月5日

 少し前の話だが、10月27日に放送された日テレの「ケンミンSHOW」は、「山形ラーメン王座陥落、首位奪還の秘密兵器は」と題して山形県のラーメン事情を特集していた。
 「山形県民はラーメンが大好き。中華そば(外食)年間支出金額では2013年から8年連続で山形県が1位だった。ところが!2021年は2位に転落、お隣の新潟県に首位を奪われた!その金額は、1位新潟市の13,734円に対し、2位山形市は13,434円。たった300円差で首位を奪われたのだ。」という。番組ではその後、山形県内各地のラーメンの魅力を取り上げてゆくのだが、ここで言いたいのはそこではない。
 この引用文を読んだだけでも欺瞞がわかるのだが、それは後にして例のごとく脱線する。宇都宮市は餃子が名物で、駅前には「餃子像」がある。「餃子日本一」の根拠となっていたのが総務省による「家計調査」だったのだが、2011年に初めて浜松市に抜かれると、以後はずっとこの二市で一位を争っていた。そして昨(2021)年度は宮崎市がこの二市を抑えて一位になったという、これもこうした番組で面白おかしく特集されることが多い話だ。さてここで注意したいのはこれが「県」ではなく、宇都宮・浜松・宮崎という市単位の争いだということだ。
 実は浜松市が宇都宮市を抜いたのには「カラクリ」がある。総務省統計局の家計調査の対象は、都道府県庁所在市と政令指定市だけなのである。浜松市が政令指定市に昇格して調査対象になったのは08年度からで、それ以前のデータはない。どうやらこの時、餃子の支出額が宇都宮に次ぐ二位と分かったため、「名物」として推すことになったらしい。だがここで、「一位」というのは、あくまで47+5(浜松の他、川崎、相模原、堺、北九州)市の中の一位に過ぎない。調査対象を拡大すれば思いがけないところが浮上してくる可能性はまだまだあるのだ(浜松がそうだったように)。
 宇都宮は栃木県の県庁所在市だが、なじみのない地方の人だとすぐには分からないかもしれない。「栃木市」もあるからさらにややこしい(県庁所在市でない県名と同名の市は他には山梨市と沖縄市だけである)。余談だが、都道府県名と庁舎所在市名が異なるのは19(東京と埼玉を含む、『東京市』はすでに存在しない、『さいたま』は表記が違う)都道県である。また、神奈川県と兵庫県には、横浜市神奈川区・神戸市兵庫区が存在する。
 浜松市はいまや静岡県最大の都市になっているが、県庁所在市として県名と同名の静岡市がある以上、静岡代表にはなれない。そこに宮崎が加わったところで、ケンミンショーも県同士の対決には仕立て上げられなかったのだろう。
 話を戻そう。ラーメン部門で山形県が8年連続で1位だったというのは全くの嘘だ。「山形市が、全国の52市の中で1位だった」というに過ぎない。県庁所在市以外でもラーメンで有名な都市は多く、今思いつくだけでも旭川、函館、喜多方、佐野、高山、尾道、久留米等々…。調査対象を広げれば山形市が一位でなかった可能性は高いのだ。仮に山形市が一位だったとしても、それをもって山形県が一位ということにはならない。それは新潟市・県の場合も同じだ。この番組では三条市や長岡市のラーメンにも触れていたが、それらはこの統計には一切反映されていない。「巻き返しを誓う山形ラーメンの秘策」などといって山形県内各地のラーメンを紹介していたが、庄内地方や置賜地方の人々がいくら頑張ってラーメンを食べても、山形市の支出金額増にはつながらないのだから、全く意味がないのである。
 結局、この番組は「新潟県と山形県のラーメン頂上対決」などという、本来ありもしないものをでっち上げただけ、ということになる。いちいち目くじらを立てるほどのことではないと言われるかもしれないが、なんとなくモヤモヤしてしまった次第である。

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