生田緑地ばら苑

旅、人物

11月2日

 秋晴れの一日、川崎市の「生田緑地ばら苑」に行ってみた。これはもと「向ヶ丘遊園」という遊園地の中にあったバラ園である。遊園地のバラ園と言えば、千葉県出身の僕は(ディズニーランドではなく)京成谷津遊園を思い出す。幼い頃、ここのプールでグループ・サウンズの「オックスショー」というのを見た記憶がうっすら残っている。GSブームが下火になった頃のことだろう。

 向ヶ丘遊園のバラ園は、川崎市の所管となって保存され、春と秋に一般公開されている。遊園地があった頃は、小田急の向ヶ丘遊園駅からのモノレールがあったのだが、今はバス便のみ。バス停の名は「藤子・F・不二雄ミュージアム」だ。ミュージアムのすぐ隣がかつての遊園地のメインエントランスだが、今は荒涼たる工事現場。エスカレーターも撤去されてしまっているので、ここから徒歩で坂を登っていく。これが地味にきつい。そして最後に114段の階段がある(足の不自由な人のためには巡回バスもあるとのこと)。台数は少ないが上に駐車場もあった。息を切らして苑につくと、馥郁というほどではないが、ほのかに甘い香りがしてくる。今年は猛暑の影響で花が少し寂しいが、それでもやはり薔薇は別格という感じがする。

 「ブルームーン」があった。が、まるで青くない。中井英夫がその名(迷)著「薔薇幻視」で、青いバラの神秘について書いていたのをふと思い出した。自然界に、赤・青・黄の三色が揃った花は存在しない。今は花屋で青いバラを見ることもあるが、あれは白バラの切り花に青い色素の入った液を吸わせて着色したものだ。中井は「少なくとも今世紀いっぱい、純粋の青いバラは胎児のまま眠り続けるだろう」と書いていたが、21世紀になっても青いバラは実現していないのだ。この本は、「平凡社カラー新書」の一冊だが、姉妹編の「香りへの旅」とともに、中井自身が(実用書ならぬ)虚用書と銘打った本。バラの栽培等には何の役にも立たぬ本なのだ。「薔薇連禱」と題した小詩集やフランス旅行記、掌編小説まで入ったなんとも不思議で魅力的な本だった。

 川崎市というと工業地帯に、ギャンブル場、三業地といったイメージを持つ人も多いだろうが、実は文化施設も豊富だ。生田緑地内には25棟もの古民家を移築した「日本民家園」や、「岡本太郎美術館」がある。「かわさき宙と緑の科学館」のプラネタリウムは「メガスター」で、たった400円で見ることが出来る。いつぞや見たコニカミノルタのとは大違いだ(2021年7月4日付の投稿参照)。

 帰路は向ヶ丘遊園駅まで「ばら苑アクセスロード」という遊歩道を歩いた。道沿いにバラが咲き誇り、むしろこちらの方が見事に感じられた(ちょっと悲しい)。向ヶ丘遊園駅と言えば、ウルトラセブン「狙われた街」のキタガワ町駅はここだ。ダンとアンヌが張り込みをした喫茶店はどこだろうなどと埒もないことを考えた。半世紀以上前の風景が残っているはずもない。

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