9月29日
8月31日の投稿で、小説家星野智幸の寄稿を紹介した。現代の日本が「あらゆる発言が攻撃できるか感動できるかで消費される状態」になっていることを嘆く星野に対して、ジャーナリストの安田峰俊が「ナイーブ」と断じたと書いている。
この「ナイーブ」はもちろんネガティブな意味あいである。「世間知らず」とか「ばか正直」「おめでたい」と言うニュアンスになる。英語圏の人に「あなたはナイーブだ」と言うと罵倒したと受け取られるという。もともとはフランス語に由来する言葉だが、フランス語でも同様で、時には「愚か者」の意味にもなる。
このことに複雑な思いがあるのは、僕がこの言葉をいい意味だと思って長く使っていたからである。1981年発行の小学館国語大辞典で、「ナイーブ」を引くと、
「➀人の性格や感じ方、また考え方などが、生まれつきのままで、すなおなさま。純真。また、感じやすい性質であるさま。『ナイーブな感じの青年』②事物に手のこんだ飾りや技巧がなく、単純なさま。素朴。」とある。読んでわかるように、ネガティブなことはほとんど書かれていない。
松本隆作詞の曲にその名もずばり「ナイーブ」というのがある。以前紹介した「海が泣いている」(21年8月投稿)と同じアルバムに収録されている、太田裕美の曲である(作曲・筒美京平)。
恋人が「ナイーブ」だと語る女の子の歌である。彼は「男のくせに」TVの映画を見てもほろりと泣くし、友達からは「なんだか頼りない」と評される。でも彼は私を優しく支えてくれるし、私に安らぎを与えてくれる、そんな彼のガラスの器のような心に私を注いてみたい、と歌うのである。
曲の方は相変わらずの京平節で、アレンジは何故かちょっとオリエンタルな雰囲気なのだが、大好きな曲の一つである。
この詞でもそうだと思うが、僕は「ナイーブ」という言葉を長らく、「傷つきやすさ」、「繊細さ」という意味合いで捉えていた。
「ナイーフ(素朴派)」と呼ばれる画家たちも好きだし、今さら「ナイーブはネガティブな言葉だから、ピュアとかセンシティブと言い換えろ」と言われてもちょっと困ってしまうのだ。
実は僕は結婚する前の妻から、「あなたはナイーブな人だ」と言われたことがあるのである。もちろん褒め言葉として言われたのであり、そうでなければ僕は彼女と結婚していない。
まあ、60歳を過ぎて「ナイーブ」なままなら、「おめでたい」と言われても仕方がないかも知れないが。
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