気になる言葉「~ぶり」

詩、ことば、文学

6月12日

 この言葉は「気になる」というより、使うたびにいつも正しいのか不安になる。同じメンバーで年一回開催している会合があり、コロナ禍で休止していたのだが先日復活した。これを「○○ぶり」と言うべきか一瞬迷った。パスしたのは2回だが、前回の開催から丸3年なので「3年ぶり」が正解である。
 ところで、年一回開催のスポーツ大会に昨年も出場していた場合、「一年ぶり」の出場とは普通は言わない。「(2年)連続」の出場と言うだろう。だがその同じ大会で「一年ぶりの対戦」はあり得る。このあたりがなんともややこしい。それでは「二回ぶりの出場」と言った場合は、出場しなかったのは1回か2回か?
 実はこの質問は「どちらとも、答えようがない」が正解なのである。
 辞書で「ぶり」を引くと、「時間を表す語に付いて、それだけの時間が経過した意を表す」とある。つまり「ぶり」の前は「時間(の経過)を表す語」でなくてはならず、「〇回」はそうではないから、結果として意味をなさないのだ。だが、実際には「〇回ぶり」という表現を見たり聞いたりしたことは何度もある気がするのだが。
 この「ぶり」をめぐっては、他にも問題が指摘されている。
①この言葉で表される時間の経過の前後は同じ現象が起こっている必要がある。よって、「花火大会が3年ぶりに開催された」は問題ないが、「この橋は着工5年ぶりに竣工した」は厳密にいうと間違いである。
②基本的には、好ましい、期待される事象に用いられる。したがって「3年ぶりの大災害」というような表現は相応しくないとされる。
 だが、現実にはこのどちらも今では普通に使われているようだ。それに加えて、最近は新しい使われ方が目立つようになってきた。それは、「大学卒業ぶりに再会した」のように、「ぶり」の前に、時間の経過ではなく起点を表す語を置き、「~以来」の意味を持たせたものである。
 こういう用法はどうして生まれたのか。そもそも「ぶり」という言葉は経過した時間の後に付くという厳密なルールがある一方で、「久しぶり」「しばらくぶり」などの「ゆるい」表現も生んでいた。久しぶりに誰かに会った時、前回はいつだっただろうという意味で、「いつぶりだろう」という問いかけが生まれ、それに答える形で例えば「去年のクリスマスぶり」などという言い方が生まれたもののようだ。この表現について、明鏡国語辞典のように「『ぶり』の前に、<物事の始点>がくる言い方は誤り」と明確に断じている辞書もあるが、既に俗語的な用法として認める動きもあるようだ。先日はTVで女性ニュースキャスターが使っているのを聞いた。
 これからはこの言葉を聞いた時に、時間の経過を表しているのか、いつ以来かを言っているのか考えなければいけなくなるかもしれない。だが、例えば前回が2020年であるような場合、うっかり「2020年ぶり」と言ってしまうと、(今年は2023年だから)前回は紀元3年ということになりかねないので注意が必要だ(ま、常識的に考えてそんなことはないだろうが)。
 話は変わるが、「久しぶりの挨拶を述べる」という意味で「久闊を叙す」という言葉がある。めったに使われることはないが認知度は高い筈だ。僕も教員時代、何度も定期試験の問題にした。高校の国語教科書の定番である中島敦の「山月記」に出てくる言葉なのだ。こういう言葉は、教科書に載らなくなればすぐに死語になるだろう。日本語の豊かさのためにも、この「山月記」とか、鴎外の「舞姫」などを教科書に載せる意味は(まだ)あると思う。

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