「ザイム真理教」を読む

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9月21日

 森永卓郎の「ザイム真理教」を読んだ。音訳の依頼があったからで、そういうことがなければまず手にしない本であろう。僕は経済音痴なのだ。
 ザイム真理教とは、もともとネット等で財務省を揶揄する言葉として広まったものらしい。「日本は借金大国」という話をよく聞くが、それは財務省が主唱し、マスメディアが広めた嘘だと著者森永は言う。日本政府は確かに負債も多いが、資産も多く、差し引いた負債額は国際的に見てそれほど高くない。さらに、「通貨発行益」を利用すれば、その負債も事実上ゼロに出来る、という。消費税を引き下げ、もしくは廃止し、その分を国債で賄い、さらにそれを日銀に買い取ってもらうべきだというのが、論旨だ。
 森永は、アベノミクスという「社会実験」によって、年80兆円程度の国債を日銀が引き受けても、何ら悪影響が出ないことが証明されたと言う。アベノミクスが実験だったとは初耳だ。アベノミクスが失敗したのは、消費税率を上げたからだというのが著者の主張なのだが、それだけだろうか。僕は経済のことはよくわからないが、アベノミクスの評価は人によってずいぶん違うと感じる。失敗だったと言っている人はほとんど「庶民」だ。トリクルダウンとやらが起きなかったからだろう。そこに消費増税が追い打ちをかけたのだと思う。
 さて、財政赤字がかさむとハイパーインフレが起き、経済が大崩壊するという「日本経済突然死論」に対し、著者はそんなことは絶対に起きないという。その根拠として、①2022年9月、オーストラリア準備銀行が大量に買い入れた国債などのために債務超過に陥ったが、実質何も困ったことは起こらなかった。②ギリシャが2012年に財政危機に陥った際には、その二年前には兆候が表れていた。自国通貨を持つ日本の場合は、変化はもっとゆっくりで、財政引き締めをする時間は充分にある。という二点を挙げている。これが正しいのかどうか、僕にはわからない。あまり危機を言い募るのも感心しないが、一方で「絶対安心」と言われると、これまた眉に唾を付けたくなってしまうのだ。
 財務省のキャリア官僚の多くは東大法学部出身のエリートで、経済学を勉強していないから、誤った「財政均衡主義」を信じ込んでしまったという(森永は東大経済学部出身)のだが、それならなぜ日本の経済学会が反対してこなかったのか、不思議でならない。
 著者が自説を補強するために、高橋洋一や長谷川幸洋のコメントを援用しているのも気になるところだ。この二人は安倍元首相のシンパとして有名だからだ。本書には書かれていないが、「ザイム真理教」という言葉をネットに広めたのは自民党の西田昌司参議院議員(安倍派)だという。「絶対悪」の財務省と闘った安倍元総理は偉大だった、と言いたい底意が透けて見えてしまうのだ。悪の秘密結社と闘うドナルド・トランプのイメージだ。
 著者が、右から左まですべての大手新聞社が「ザイム真理教」のサポーターだと言うに至っては,何やら陰謀論めく。大蔵省(現財務省)を嫌うのはよくわかるのだが、それが責任をすべて財務省に押し付けようとする人たちにうまく利用されてしまっている気がしてならない。著者が言うように、消費税全廃が出来るなら良いが、今の政府・与党(とそれを支える官僚機構)では、おそらくそんなことにはならないだろう。
 この本の読みどころはむしろ後半だ。税制上の「控除」が次々に廃止、減額され、高齢者や低所得層の生活はどんどん苦しくなっている。それに対し、国家公務員(高級官僚)や政治家の権益は護られている。また、富裕層には納税を逃れるたくさんのカラクリが用意されている。そういったことが豊富な資料で分かりやすく説かれているのだ。
 優遇されているのは国家公務員(高級官僚)であって、それは財務省の役人ばかりではない。財務省は悪だが、経産省なら良いという話ではないのである。富裕層優遇をやめ、応分の税金を払わせる(特に金融所得にしっかり課税する)。最低賃金を大幅に上げるか、「同一労働同一賃金」を徹底する。困っている人に直接支援が届く仕組みを作る。その方が僅かばかりの消費税減税をするよりはるかに効果があると思う。
 最後に著者は読者に「逃散」を勧めるが、僕はやはり「一揆」だと思う。現代の一揆に暴力は必要ない。選挙に行きさえすればいいのだから。

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