7月26日 (筒美京平の話 つづき)
筒美を(今風に言えば)フォローしていた僕は、「また逢う日まで」でレコード大賞を取った時、破顔する阿久悠の隣でどこか居心地悪そうな筒美の姿をTVで見ている。「甘い生活」で作曲賞を取った時は生放送でオーケストラを指揮してもいた。いくつかのLPのジャケ裏には写真も載っているし、深町純がパーソナリティーを務めるラジオにゲスト出演したのを聴いた記憶もある。「筒美京平実在しない説」があったという話は、バラエティー番組などで聞いたことはあるが、どうも後から作った話のように感じる。だが、それより僕が許せないのは、筒美の音楽を「無個性だ」などと評する向きがあることだ。僕は当時、筒美の音楽はワンフレーズでも聴けばわかると思っていた。こんな音楽を作れるのはこの世に筒美京平一人しかいないとまで思っていたのだから。
ヒットにしか興味がないという話の方は、例えば松本隆による次のような話が根拠となっている。松本が初めて筒美に会った際、それまで筒美の曲を聴いたことがなかったので、盟友の細野晴臣におすすめの曲を尋ねておいた。そこで「『くれないホテル』はいい曲ですね」というと、筒美はさも気がなさそうに「ああ、あの売れなかった曲ね」と答えたというのである。だが、これをもってヒットにしか関心がないというのはどうか。
ここで僕が偏愛する筒美の曲をいくつか挙げてみよう。
ひとりごと(早春のハーモニー)、いとしい傷(ひとかけらの純情)、夏の終わり,GET DOWN BABY(シンシア・ストリート)、以上南沙織。20歳を過ぎたら、恋のハイウェイ、ウィスキー・ボンボン(HIROMIC WORLD)、街かどの神話(同)、以上郷ひろみ。異邦人、ドライ・フラワー(GORO IN NEW YORK‐異邦人‐)、漂いながら揺れながら(ラストジョーク)、以上野口五郎。キャンパスガール、おしゃれな感情、月のしずくで(ファンタジー)、地平線の彼方(飛行船)、恋人たち(同)、ピラミッド、カンバセーション、想い出は9月ゆき(パンドラの小箱)、STREET DANCER、KISS AGAIN、ROSE(Wishes)、以上岩崎宏美。夏風通信、ロンドン街便り、暗くなるまで待って(こけてぃっしゅ)、ピッツァ・ハウス22時、Summer End Samba(エレガンス)、スカーレットの毛布、街の雪、∞アンリミテッド(海が泣いている)、以上太田裕美。微熱植物、パープル、首飾り(MIKI WORLD)、以上平山三紀。LAST DANCE IN MOSCOW(さよなら物語)、オリエンタルアイズ、八月の水鏡(STARDUST GARDEN 千年庭園)、以上河合奈保子。
これらはほんの一部に過ぎないが、よほどの京平フリークか、またはそれぞれの歌手のファンしか知らない曲ばかりだろう。すべてシングルカットされていない、アルバムの収録曲だからである(括弧内は収録アルバムのタイトル)。つまり最初からヒットなど狙ってはいない曲であるが、逆にヒットの呪縛から解放されて、好き放題に作っているのではないかと思うような曲もある。まったく手を抜くことなくこれほどの曲を作り、しかも多くは編曲までしている。これらを実際に聴いていただければ、筒美がヒット以外に興味がなかったなど、ありえないということがおわかりいただけるだろうと思う。
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